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原稿中に限ってね
- 2008-11-24(00:19) /
- 鋼SS・弟姉
いまさらな時間軸ですが。
『破戒の旋律』直後の時間軸だと思いねぇ。
+ + + + +
触れて欲しい――。それがその時、オレの正直な気分だった。
一度は触れた弟だ。積もりに積もった三年分の想いのたけを、オレはぶちまけ、全てを許して、その手に抱かれることとなった。それから十日もの間、オレはアルのベッドの中にいて――あれからまだ幾ばくも日数は経っていない。記憶は新しく残っている。だがその時の出来事を、思い返せば思い返すほど、どういうわけかオレはおそろしく気後れを感じて――アルの顔もまともに見返せないでいた。
三年もの間、擦れ違っていた弟だ。
なのに一度触れただけで、封じた想いは堰を切ってたやすくあふれ、弟への渇望は果てしない。
正直なところを、伝えたって良かったのだろう。しかし己の弟でもある存在に、そんなことをいったいどう伝えたらいいのかわからなくて、その時のエドワードは戸惑い逡巡する他に術を持っていなかった。
――二度目の、
誘ってくれたのは、弟の方だ。
「今夜はひとりで自分のベッドに入りたい、なんて……まさか言ったりしないよね?」
問いかけは疑問系だったが、否、という答えなど出るはずもなかった。ただ、兄貴のくせをして――という意地が己のうちにもあって、素直に頷くのも何だか癪で、咄嗟に応えることもまた、エドワードは出来ずにいたのだけれど。
「……急ぎ、すぎかな」
アルフォンスの顔を見返したまま、不覚にも固まるという反応を返してしまったエドワードに、苦笑いの表情でもってアルフォンスが言ったので、思わず無言で首を左右に振ってしまったエドワードだ。
「……そう? なら、よかった」
と、アルフォンスが笑顔になった。
アルフォンスはリビングのソファにすることもなく座っていたエドワードの目の前についと掌を差し出して、
「……立って?」
言われたとおりに、エドワードは立ち上がった。すると自分の視線の位置が、目の前にあるアルフォンスの身体のちょうど胸板のあたりになり、エドワードはそのことを意識しながら何とはなしにうつむいてしまう。うつむきたくなったわけは自分でもよくわからなかったが、どちらかといえばその位置から顔を上げてアルフォンスを見つめられなかった、というのが正しい表現かもしれなかった。ただ、そんなエドワードのおとがいへは、すぐに弟の指が伸びてきて、あえなくくいと顎を持ち上げられ、強引に上を向かされる。
「……そこでちゃんと目をみてくれないのは、ルール違反」
「アル……フォンス……」
深い深い、蜜色の瞳。見つめることを余儀なくされると、知らずエドワードの胸は軋んで、少し、呼吸が苦しくなる。
「ついこのあいだまで……仕事なんて、忙しければ忙しいほどいいと思ってた。でも、こうなると……忙しいのも考え物だね」
言いながらアルフォンスが唇に浮かべた微笑みは、それはそれは柔らかなものだ。エドワードのおとがいへと指をかけたまま、アルフォンスは続ける。
「……待ち遠しかった。この、瞬間が」
失ったものと思っていた。甘い台詞、甘い声。これは本当に現実なのかと、噛み締めることが一方のエドワードにはまだ必要な状況だった。
ついこの間、とアルフォンスがいま言ったが、当のアルフォンスが自分だけに、こうしてまっすぐに向けてくれる眼差しさえ。もう二度とは得られぬものと諦めるのだとエドワードだってそれこそついこの間まで胸に刻んで決めていたのだ。
それが急にひっくり返って、味わっているのは心許なさ。それとないふうを装って、弟の前に立とうとするも、そんな己の素振りとは裏腹に胸はいっそう締めつけられる。
本当は、それだけでももう充分に、溺れてしまいそうな心地だった。こんな弟を目の前にして、いま、エドワードにしてみれば、平静でいることすらがとても難しい。
「――……」
大袈裟だな、と、エドワードは弟に返そうとした。
けれども、自分の唇は微かに開いて震えただけで、それも失敗に終わってしまう。
そこで言葉が途切れたとして、沈黙をどう――埋めたらいいのかも。たとえばいまのエドワードには、キスのねだり方さえおぼつかないのだ。
「……ア、ルフォンス、……ぁ……」
弟の顔が近づいた。そう思ったら、自分の唇に暖かくて柔らかなものが触れていた。
アルフォンスの唇だ。
それはそっと押し当てられ、エドワードの唇を、かすかにかすかに啄むような感触を残してゆっくり離れる。
「……」
「……さぁ。部屋に、上がろうか」
エドワードは反射的に目を瞑ってしまっていて、おそるおそる瞼を上げると、そのまま溜息がこぼれてしまった。息を詰めてしまったせいだ。
口接けにさえまだ慣れないと、アルフォンスには伝わったことだろう。眼差しを上げると、しかし目の前には、弟の、あまりにも優しすぎる表情があって――。
「……」
何か、言いたい。
でも、言葉は出てこない。
弟が、自分を見つめてくれる瞳に、いまや否定も出来ないくらいに、確かにあふれている感情。
それを自分は受け取っていいのか。
あるいは、まだ。
夢のようだ、と。
信じられないくらいに甘い眼差しだ。笑みを含んで、少し潤んで。それにいっそ、胸が潰れる。
弟の瞳に見つめられて、エドワードはいまさらながらに、陶然、という言葉の意味を知る。
愛しい、と。素直に思っていいのだということ。それがいまは、かえってどうにもならないほどに気持ちを膨張させていく。歯止め無く想っていい。だからこそこれほどまでに止めどなく切なく胸は締めつけられる。自分が自分ではなくなるような感覚でもある。でも、それでもいい。ここにいまあるエドワードは、エドワードの自我というよりただひたすらにアルフォンスを想う気持ちの塊だ。泣きたくなる。それでもいいのか、と。自分のかたちさえなくなる。それくらいにこの弟が好きだ。
+ + + + +
前半です。
続くんですが、続くんですが、それは原稿やってからにしろ。自分。
『破戒の旋律』直後の時間軸だと思いねぇ。
+ + + + +
触れて欲しい――。それがその時、オレの正直な気分だった。
一度は触れた弟だ。積もりに積もった三年分の想いのたけを、オレはぶちまけ、全てを許して、その手に抱かれることとなった。それから十日もの間、オレはアルのベッドの中にいて――あれからまだ幾ばくも日数は経っていない。記憶は新しく残っている。だがその時の出来事を、思い返せば思い返すほど、どういうわけかオレはおそろしく気後れを感じて――アルの顔もまともに見返せないでいた。
三年もの間、擦れ違っていた弟だ。
なのに一度触れただけで、封じた想いは堰を切ってたやすくあふれ、弟への渇望は果てしない。
正直なところを、伝えたって良かったのだろう。しかし己の弟でもある存在に、そんなことをいったいどう伝えたらいいのかわからなくて、その時のエドワードは戸惑い逡巡する他に術を持っていなかった。
――二度目の、
誘ってくれたのは、弟の方だ。
「今夜はひとりで自分のベッドに入りたい、なんて……まさか言ったりしないよね?」
問いかけは疑問系だったが、否、という答えなど出るはずもなかった。ただ、兄貴のくせをして――という意地が己のうちにもあって、素直に頷くのも何だか癪で、咄嗟に応えることもまた、エドワードは出来ずにいたのだけれど。
「……急ぎ、すぎかな」
アルフォンスの顔を見返したまま、不覚にも固まるという反応を返してしまったエドワードに、苦笑いの表情でもってアルフォンスが言ったので、思わず無言で首を左右に振ってしまったエドワードだ。
「……そう? なら、よかった」
と、アルフォンスが笑顔になった。
アルフォンスはリビングのソファにすることもなく座っていたエドワードの目の前についと掌を差し出して、
「……立って?」
言われたとおりに、エドワードは立ち上がった。すると自分の視線の位置が、目の前にあるアルフォンスの身体のちょうど胸板のあたりになり、エドワードはそのことを意識しながら何とはなしにうつむいてしまう。うつむきたくなったわけは自分でもよくわからなかったが、どちらかといえばその位置から顔を上げてアルフォンスを見つめられなかった、というのが正しい表現かもしれなかった。ただ、そんなエドワードのおとがいへは、すぐに弟の指が伸びてきて、あえなくくいと顎を持ち上げられ、強引に上を向かされる。
「……そこでちゃんと目をみてくれないのは、ルール違反」
「アル……フォンス……」
深い深い、蜜色の瞳。見つめることを余儀なくされると、知らずエドワードの胸は軋んで、少し、呼吸が苦しくなる。
「ついこのあいだまで……仕事なんて、忙しければ忙しいほどいいと思ってた。でも、こうなると……忙しいのも考え物だね」
言いながらアルフォンスが唇に浮かべた微笑みは、それはそれは柔らかなものだ。エドワードのおとがいへと指をかけたまま、アルフォンスは続ける。
「……待ち遠しかった。この、瞬間が」
失ったものと思っていた。甘い台詞、甘い声。これは本当に現実なのかと、噛み締めることが一方のエドワードにはまだ必要な状況だった。
ついこの間、とアルフォンスがいま言ったが、当のアルフォンスが自分だけに、こうしてまっすぐに向けてくれる眼差しさえ。もう二度とは得られぬものと諦めるのだとエドワードだってそれこそついこの間まで胸に刻んで決めていたのだ。
それが急にひっくり返って、味わっているのは心許なさ。それとないふうを装って、弟の前に立とうとするも、そんな己の素振りとは裏腹に胸はいっそう締めつけられる。
本当は、それだけでももう充分に、溺れてしまいそうな心地だった。こんな弟を目の前にして、いま、エドワードにしてみれば、平静でいることすらがとても難しい。
「――……」
大袈裟だな、と、エドワードは弟に返そうとした。
けれども、自分の唇は微かに開いて震えただけで、それも失敗に終わってしまう。
そこで言葉が途切れたとして、沈黙をどう――埋めたらいいのかも。たとえばいまのエドワードには、キスのねだり方さえおぼつかないのだ。
「……ア、ルフォンス、……ぁ……」
弟の顔が近づいた。そう思ったら、自分の唇に暖かくて柔らかなものが触れていた。
アルフォンスの唇だ。
それはそっと押し当てられ、エドワードの唇を、かすかにかすかに啄むような感触を残してゆっくり離れる。
「……」
「……さぁ。部屋に、上がろうか」
エドワードは反射的に目を瞑ってしまっていて、おそるおそる瞼を上げると、そのまま溜息がこぼれてしまった。息を詰めてしまったせいだ。
口接けにさえまだ慣れないと、アルフォンスには伝わったことだろう。眼差しを上げると、しかし目の前には、弟の、あまりにも優しすぎる表情があって――。
「……」
何か、言いたい。
でも、言葉は出てこない。
弟が、自分を見つめてくれる瞳に、いまや否定も出来ないくらいに、確かにあふれている感情。
それを自分は受け取っていいのか。
あるいは、まだ。
夢のようだ、と。
信じられないくらいに甘い眼差しだ。笑みを含んで、少し潤んで。それにいっそ、胸が潰れる。
弟の瞳に見つめられて、エドワードはいまさらながらに、陶然、という言葉の意味を知る。
愛しい、と。素直に思っていいのだということ。それがいまは、かえってどうにもならないほどに気持ちを膨張させていく。歯止め無く想っていい。だからこそこれほどまでに止めどなく切なく胸は締めつけられる。自分が自分ではなくなるような感覚でもある。でも、それでもいい。ここにいまあるエドワードは、エドワードの自我というよりただひたすらにアルフォンスを想う気持ちの塊だ。泣きたくなる。それでもいいのか、と。自分のかたちさえなくなる。それくらいにこの弟が好きだ。
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前半です。
続くんですが、続くんですが、それは原稿やってからにしろ。自分。
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